第69章 復讐よりも意義のあること

杉浦杏奈が目を覚ましたとき、見知らぬソファに横たわっていた。空気にはアロマと、みかんの甘酸っぱい匂いが混ざっている。

彼女はすぐには目を開けない。静かに耳を澄ませた。エアコンの稼働音。遠い車道を流れる車の音。そして――女の呼吸。

女だ、と分かる。そういう息づかいを、杏奈は嫌というほど知っていた。波ひとつ立たない、悩みの影もないお嬢様の呼吸。前世の杉浦美雪が、まさにそうだった。

危険がないと確信してから、ゆっくりと瞼を上げる。天井から視線を滑らせ、周囲を確かめた。

書類キャビネット。書棚。デスク。ポトスの鉢植え……。

白衣の女が、向かいの椅子に座っていた。みかんの皮を剥いている。動き...

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